大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和32年(ネ)2333号 判決 1958年7月18日

控訴人 比留間国雄 外一名

被控訴人 国

訴訟代理人 星智孝 外三名

主文

本件控訴はこれを棄却する。

控訴人の訴拡張による被控訴人らにたいする請求を棄却する。

控訴審における訴訟費用は控訴人らの負担とする。

事実

控訴代理人は控訴ならびに訴拡張による請求として、原判決をとりけす、被控訴人は控訴人両名にたいし、おのおの、金七十一万二千五百四十六円ずつおよびこれにたいする昭和三十三年五月十五日から支払ずみまで年五分の割合の金員を支払うべし、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする旨の判決をもとめ、被控訴代理人は控訴棄却および控訴人の訴拡張による請求を棄却する旨の判決をもとめた。

当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、援用、認否は後記のとおり附加するほか原判決の事実らんに記載するところと同一であるからこれを引用する。

(控訴人の主張、立証)

原判決事実らん記載の請求原因事実中、本件損害額の主張一(原判決書四丁おもて七行目ないし同うら十行目)をつぎのとおりにあらためる。

「治雄は本件事故による死亡当時三才二月の男子であつたから、その余命は、昭和二九年七月厚生省発表の第九回生命表によると六一、一七年である。そして、もし本件事故がなかつたならば、治雄は満二十才に達してから六一、一七才まで平均してすくなくとも一年間金十二万円の純収入がある。みぎ二十才に達した最初の一年間に得べき純収入金十二万円から死亡時より二十才までの中間利息をさし引くとホフマン式計算法によつて六万四千八百六十四円となるが、これは治雄が二十才に達してから六一、一七才に至るまで毎年得べきものと推定される金額で、その総額を一時に請求するとすれば百四十二万五千九十二円と算定される。この治雄の得べかりし利益の喪失による損害賠償債権を控訴人ら両名で平等に相続したから被控訴人は控訴人らにたいしてその半額の金七十一万二千五百四十六円ずつを支払う義務がある。」

控訴人は原審において治雄のこうむつた損害額を七十一万二千五百四十六円と算定し、被控訴人の支払義務をその半額三十五万六千二百七十三円ずっと主張したが、あらためて前記のとおり請求額を拡張し、かつこれにたいする請求の翌日たる昭和三十二年五月十五日以後年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるものである。

証拠<省略>

(被控訴人の主張)

治雄が生存していたら満二十才に達したのち純収入が平均一ヶ年十二万円以上あることは否認する、したがつて控訴人主張のみ損害額はすべて争う。

理由

控訴人主張の請求原因のうち損害の数額を除くその他の事実についての判断は原判決理由に記載するところと同一であるからこれを引用する。

控訴人の不服とするところは(請求の拡張をふくむ)、被害者比留間治雄の将来得べかりし利益の喪失による損害金が認められなかつたことであるからこの点の控訴人の主張について案ずるにみぎ治雄が本件事故による死亡当時三才二月の男子であつたことは当事者間に争いなく、したがってその平均余命が六一、一七年と推定されること原判決の認定するとおりである。しかしながらみぎのような幼児が将来社会においていかなる職業につくか、またその健康状態はどうであるかなどを現在予測することはほとんど不可能といつてよく、したがつて本件においても治雄が生存していたとして何時ごろから少くともどれだけの純収入を得るか、それを同人の死亡当時に評価してどれだけの数額になるかを算定することはきわめて困難な問題であるところ、原審ならびに当審における控訴人提出援用の証拠によつてもいまだこれらの事実を適確に推認することができない。

すなわち治雄の得べかりし利益を喪失したことにもとずく控訴人の請求は認容しがたく、棄却をまぬがれない。

よつて本件控訴および控訴人の訴拡張による請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 藤江忠二郎 谷口茂栄 満田文彦)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例